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アンドリュー・ワイエス展

 上野の東京都美術館で開館100周年記念として行われているアンドリュー・ワイエス展へ行ってきました。アンドリュー・ワイエスは、ポップアートや抽象的な現代美術といったアメリカ美術界の中で独自の絵画世界を作ってきた20世紀アメリカを代表する写実画家です。生まれ育ったペンシルべニア州チャッズ・フォードと、夏のあいだ暮らした家があったメイン州・クッシングの二つの地を生涯離れることなく、身近な風景とそれぞれの地で親交を深めた家族たちの姿を描き続けた画家です。

  私は20代の頃に画集「クリスティーナの世界(画集ではクリスチーナとなっている)」でワイエスを知り、ワイエスの世界に魅了されました。1988年に世田谷美術館で行われた展覧会で初めてその絵を直に見ることができました。その後、セゾン美術館~青山ユニマット美術館~2008年の渋谷Bunkamuraミュージアムと、東京で開催された展覧会には必ず足を運びました。今回はワイエス没後はじめての展覧会で、出展作品約100点のうち10点以上が日本初公開ということもあって勇んで出かけました。 

 ワイエスの作品は、そのほとんどが水彩とテンペラによって描かれた作品です。水彩と言っても、水をふんだんに使ったいわゆる一般的な水彩画とは異なり、水分を極限まで絞ったドライブラッシュという技法を使った乾いた表現の絵ばかりです。それは、描いた土地の風土や人々の暮らしの環境や、ワイエスの死生観から来るものと推察されます。凍てつく海風にさらされた家、布で塞がれたガラスが割れた窓、風に揺れる古びた窓辺のカーテン、ドアの縁に座って遠くを見つめる女性、窓辺でまどろむ女性、窓辺に置かれた今採ったばかりと思われる籠のブルーベリー・・・どの絵も静かで孤独と生活環境の厳しさを感じさせ、人生とは・・・と語りかけてくるようです。それは、構図構成にも表れていて、その洗練された独特の切り口(視点)と、大胆なタッチで塗った部分と緻密に丹念に描いた部分とが混在する画風は、いつ見ても何回見ても心にじわじわと語りかけてきます。

 今回は日本におけるワイエス没後初の回顧展とあって混雑しているのではと思いましたが、モネやゴッホやフェルメールといった一般の人に広く知られた画家ではなく、知る人ぞ知る?といった存在の画家だからでしょうか。それほどの混雑でもなく、ゆっくりと時間をかけて堪能することができました。「境界」をキーワードに写実的な描写の奥にひそむ作者の思いに迫る展示構成ということで、新しい視点で見ることができ、とても見ごたえのある展覧会でした。やはりワイエス展は、毎回新しい感動があり学びがあります。今回も制作意欲をとても掻き立てられた一日となりました。